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脊髄損傷はリハビリテーション医学において取り扱う障害の中で主要なものの一つである.脊損者のリハビリテーションは第2次世界大戦後に急速な進歩をとげ,有能な社会人として独立しているものも多い.
わが国における脊髄損傷の歴史を顧みると,1964年の東京でのパラリッピックを境として収容から社会復帰へと徐々にではあるが前進しつつあることがうかがえる.従来,脊髄損傷は整形外科的疾患として,整形外科医が単独で非専門的分野まで扱わざるをえなかったことと,リハビリテーション思想の欠如のために社会復帰の遅れが大きく,医学的には現在でも神経因性膀胱に興味を示す泌尿器科医が少数で,患者は安らぎをえられない.リハビリテーションはチームワークを必要とするが,それは医師と他の医療スタッフ(理学療法士,作業療法士,臨床心理士,ソーシャルワーカーなど)とのチームのみを指すのではなく,各専門分野の複数の医師を含むチームワークである.脊髄損傷では少なくとも整形外科,泌尿器科,リハビリテーション科の協力のもとに,各分野について基礎的知識をもった医師がcoordinatorの役割を果してはじめてチームが生きてくる.その医師はどの科に属してもよいが,出身科の枠に閉じこもることなく,広い視野をもって脊損者を全人間的にとらえ,医学のみならず,心理面,社会面にも理解を示すものでなければならない.リハビリテーション医学特有のものに障害診断あるいは機能診断がある.脊髄損傷を障害髄節レベルで表すか,機能の残っている最下位髄節で表すかは世界的にも一定しないが,いずれにしても髄節レベルを診断することなく残存身体機能を知ることができず,ひいてはゴールを決定しえない.これもまた医師の役割として重要である.わが国における過去の損傷レベルの診断は一定性がなく,現在でもそうであるが,一般病院では骨傷レベルを用いているものが多いと思われる.
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