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昭和39年にこの本の監修者らにより同じタイトルで出版され10年以上経過した今日,久しかったこの分野の本の完成で大いなる興味と期待をもって拝読した.この10年間のこの分野における進み方はリハビリテーションの発展とともに急激に専門的になり,当初この方面に関係していたものは,数を数えるくらいであったものが,現在は多くの同志が増え,現場での指導,忙しい中での地道な研究がなされ,さまざまな困難な問題,必要性に対する科学的証明などその解決を求めつつあるのである.そのような時,タイミングよく出版されたことは喜ばしいことであり,同じ道を志すものとして,現場の忙しい中でこれだけのものをまとめられたご努力に敬意を表するものである.しかしわが国のリハビリテーション体育,レクリエーションそして身障スポーツは,入門,導入あるいは概論の時代が終り,いわば各論の時代であり,わが国に適したこの分野の発展が期待され,リハビリテーションチームの中での位置づけ,役割りがどうであるという所にきている.そのような背景を背負っての出版であるからややきびしい書評になることをお許し願いたい.
全体的には身障スポーツ書でありながら,リハビリテーション概論的なことが多くなり,部分的にあまりにも身体障害者を堀り下げすぎたような感じを受けた.反面,もっと深い内容に入るべく身障スポーツ種目の堀り下げがわずかの種目にはあったが,全体的には浅く流れていたような感じがする.身障スポーツが発展するということは,その前提条件としてリハビリテーション体育,そして社会体育などが確立され,それぞれが一貫した流れになれば身障スポーツの発展ということになるが,それに対してわが国ではどのように対処していくかという部分がないような気がする.身障スポーツということで肢体不自由者,視覚障害者,聴覚障害者を取り上げられていたが,視覚,聴覚についての内容は必らずしも適確にとらえられていない.著者の専門である肢体不自由者一本にまとめ内容の充実に入られた方がよかったような気がする.紙面の都合もあって取り上げることができなかったと思うが,同じ分野で仕事をしている人達の研究や文献の紹介が少なかったような気がする.そのことは最初に述べたように現在の現場でかかえている問題解決,あるいはその糸口に答えていないということかもしれない.一方,身障スポーツの歴史的背景や乱立しつつある世界の身障スポーツ団体の流れ,特殊教育における体育実施の是非などは詳しく述べられている.この本は身障スポーツをこれから知ろうとする者,看護学校,特殊教育で体育に携わっている人に身障スポーツに対する実施上の問題点を教えてくれ,同じ分野で働いている人達には今後の問題提起をしてくれるであろう.
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