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はじめに
[1]はじめに
再生医療,特に神経回路の再生・再構築を目的とした細胞補充療法とリハビリテーション(リハ)は,親和性が高い概念であろう.生着した移植細胞から分化した神経細胞が秩序立って機能するには,リハによる(再)学習の過程が重要な役割を担うと考えられるからだ.しかしながら,脊髄損傷(脊損)に限らず,両者の併用療法について体系立って行われた研究は多くはなく,その機序の詳細には未解明な部分が多い18).本稿では,特にその難治性からリハを含む複数の治療の併用の必要性が指摘されている慢性期のみならず,亜急性期・急性期における知見も合わせて俯瞰していきたい.
このような再生医療と併用されるリハ領域を指し示す確立した名称はないようである.最も早く2011年頃から体系立って議論してきたグループは,「regenerative rehabilitation(再生リハ)」という呼称を用いている.このほかに「再生医療リハビリテーション」といった名称を用いているグループもある.語感や音韻から受ける印象はそれぞれ異なるが,本稿では前者にならい再生リハの呼称を用いる.
[2]損傷後の時期
リハと再生医療の併用療法を考えるうえでは,細胞移植とリハそれぞれの時期特異的な治療反応性やその機序,なかんずく慢性期の治療抵抗性について理解することが重要である.再生医療分野では遺伝子発現や組織学的検討などが進められているが,リハ領域ではこうした検討が十分になされているとは言い難い.
細胞移植に焦点を置いて記せば,急性期には,一次性の機械損傷に引き続き,さまざまな炎症反応カスケードの賦活による二次損傷が進行する.移植細胞にとっても過酷な時期であることから,移植効果は高くなく8),granulocyte colony-stimulating factor(G-CSF)や肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)などとの併用療法が注目を集めている.続く亜急性期には,炎症反応が収束し,内因性の神経栄養因子の発現が増加するなど細胞移植に至適な時期が訪れる.げっ歯類では受傷1〜2週間後,ヒトの場合は受傷2〜4週間後と考えられている12).この至適時期にいかにして十分な量の安全な細胞を移植するかは再生医療における1つの課題であり,たとえばiPS細胞由来神経幹/前駆細胞(neural stem/precursor cell:NS/PC)の場合はhuman leukocyte antigen(HLA)適合ドナーからの同種移植allograftを速やかに行える体制—iPS細胞バンク—づくりなどが図られている.
慢性期では損傷脊髄の治療抵抗性が大きな問題となり,細胞移植単独での機能回復は期待できないことが知られている10).当然のことながら後遺症に苦しむ患者の大多数は慢性期にあり,この問題の解決はわれわれの悲願である.原因としては,瘢痕形成や組織融解のような構造的変化と,そこに発現するsemaphorinファミリーやミエリン由来軸索再生阻害因子(Nogo,MAG,OMgpなど),グリア瘢痕由来の軸索再生阻害因子(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン〔chondroitin sulfate proteoglycan:CSPG〕など)といった軸索伸展阻害因子の発現が知られている11).したがって,損傷組織の処理や軸索再生阻害因子群の抑制剤による神経軸索の再生誘導,血管新生を含めた新生組織の足場(scaffold)の形成といった治療の併用によって,脊髄再生を促す試みが続けられている.
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