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はじめに
特別養護老人ホーム(以下特養)は1963年に施行された老人福祉法に基づく老人福祉施設の一つで,治療を目的としない(つまり患者ではない)老人が生涯滞在する施設として設立され,在宅介護が困難な老人や在宅介護を行う身内のいない老人が収容されている1).しかし,実際には入所老人は徐々に高齢化し医療が必要な患者が大半を占め,特に入所老人の痴呆化が大きな問題になっている.
特養に長期間入所している老人を観察していると,骨折による長期臥床をきっかけに急速に痴呆症状が進行することをよく経験する.これは単に廃用性痴呆とでもいうべきものなのか,このような老人の脳病理所見は興味のもたれるところである.近年アルツハイマー型痴呆脳の特徴的な病理所見の一つである老人斑が60歳以上の老人脳にび漫性老人斑として多量に出現しても痴呆を示さない症例が多いことが知られており2,3),臨床的痴呆を生じる前に脳の基質的変化は始まっていると考えられる.またアルツハイマー型痴呆患者の経過を観察していると,環境因子の改善に伴って痴呆の程度が軽くなることもしばしば経験する.このように臨床的な痴呆は,脳の器質的病変による脳機能低下のみでなく,脳への知覚刺激や身体の筋活動による脳機能の賦活とのバランスの上に成り立っており,このバランスの崩壊により脳の機能低下が顕著になることが臨床的な痴呆症状になるのであろう.
このバランスを崩す最も主要な原因は老人の寝たきり化であると考え,われわれは特養入所者の移動動作からみたADLレベルと知的レベルとの関係を検討し,さらに老人が寝たきりとなる原因を検討した.
なお本稿では寝たきりは「歩行が不能で車椅子も自力で使えず,介助がなければベッド上の生活を余儀なくされるもの」として用いており,ベッド上で起きられずに終日臥床しているもの(狭義)の意味ではない.
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