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はじめに
昭和35年以来の急激な都市化の進行とともに,私たちの生活空間にはさまざまな問題が生起した.そのいずれもが,空間や環境の創造に従事している建築技術者・研究者に担わされる課題である.
身体障害者のために環境を整備する課題は以前からあったが,経済中心の開発がすすめられた地域空間のなかで,老人や子供,そして身障者の生活の場が圧迫されてきたために,これらの身体的弱者の立場から地域空間づくりを考えていくことが,私たちのより重要な課題となってきた.
昭和38年の老人福祉法の施行により,日本の福祉の法制度は確立したといわれた.しかし,当時の身障者のための“病床”は人口10万対約40床で,イギリスの水準(130床)に比べはるかに少なかった.水上勉氏が肢体不自由児者の施設の不足を世に訴えたのもこの時期である.
建築の研究分野で社会福祉施設が組織的にとりあげられたのも同時期であった.研究者の視点は「施設の使われ方を調査し,矛盾点を改善すること」にあった.
以来,いくつかの施設設計の経験を経るなかで,身障者のための施設を研究するグループができた.その課題は,身障者の生活要求に対応して拡大していった.建築空間の発展とは,その中で営まれる生活の発展につながることと同意であったからである.
私たちのリハビリテーションに対するアプローチは次の2点が,他の分野とくらべ特徴的である.第1に,問題を「地域的に解決されるべき課題」として把えたことである.これは,人口の都市集中に伴って,住宅団地を始めとする大規模な開発計画がなされ,建築の“地域化”に対応した当時の建築界の動きを反映したものであった.その意味では,いわゆる“地域福祉”の考え方から取上げたものではなかった.
いまひとつは「身障者と物・空間との関係」の改善である.空間をつくることを職能とする建築分野では当然考えられるべき課題である.とくに「建築物の障害を除くことが,身体障害者(Disabled)のうちの“障害者”(Handicapped)人口の減少につながる」というゴールドスミス氏の著作1)の考え方によるところが多い.
現在,私たちは,身障者のための目標を,いくつか提示することができる.これらの課題の内容と,その背景について私見を述べて,建築分野の10年間の回顧に替えたいと思う.
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