Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「恋の罪」―愛着不全の問題を相対化する渾身のテキスト
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.295
発行日 2012年3月10日
Published Date 2012/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102419
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「恋の罪」(監督/園子温)は,1997年に起きた東電OL殺人事件に材を取ったものである.もちろん,殺される女性の設定は変えており,日本文学を専攻する東都大学助教授となっている.この事件の謎は,なぜ一流大学出身のエリート女性が金銭に困っているわけでもないのに,渋谷のラブホテル街で売春を繰り返していたのかという点にある.本作の真骨頂は,昼夜別の顔をみせる心の正体を探るために3人の女を動かしたところにある.
殺害された現場には,大書きされた『城』の文字が残されていた.これは,現代実存主義文学の先駆者と称されているフランツ・カフカ(1883~1924)の作品タイトルだ.劇中,城の周りをぐるぐる歩いても城の入り口には一生辿り着けないという話として語られるのだが,これは,大学助教授の尾沢美津子(冨樫真),人気作家の妻である菊池いずみ(神楽坂恵),夫も子どももいる女刑事吉田和子(水野美紀)の内面世界を象徴するものだ.
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