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はじめに
水俣病の原因であるメチル水銀は,血液胎盤関門,血液脳関門を容易に通過する.メチル水銀に曝露した魚介類を摂取した母親から胎盤を通して胎児にメチル水銀が移行し,胎児の脳が障害を受けた結果,生まれながらにしてさまざまな症状を呈することがあり,これを先天性(胎児性)水俣病と言う.一方,後天的にメチル水銀に曝露されたものは後天性(成人型)の水俣病であり,胎児性水俣病とは症状が異なる.成人型水俣病の神経症状として,感覚障害,小脳症状(失調,構音障害),求心性視野狭窄,中枢性の聴力障害などが出現するが,胎児性水俣病では,発育障害,言語障害,歩行障害,筋緊張異常,不随意運動など脳性麻痺様の症状がみられ,知的障害が特徴的であり,成人型と比べ重症例が多い1).
現在,水俣病の治療法として確立されたものはなく,薬物による対症療法やリハビリテーションが主な治療となっている.1978年に開設された国立水俣病総合研究センター(以下,当センター)では,1985年より,胎児性・小児性水俣病患者を主な対象としたリハビリテーションを実施している.水俣病公式確認より半世紀を迎えた現在,当センターを利用している患者の平均年齢は57.7歳となり,個々の障害が加齢に伴う変化によって修飾されている状況である.さらに,主たる介護者である家族の高齢化も進んでいることを考慮すると,慢性期にある患者の機能および能力をできる限り維持していくことは,当センターの行っているリハビリテーションの大きな課題であると言える.
そのようななかで2008年より,慢性期にある胎児性水俣病患者に対し,新たに振動刺激と促通反復療法を取り入れたリハビリテーションを開始した.これまで,急性・亜急性期の脳血管障害患者に振動刺激を実施した後,促通反復療法を行い,効果がみられたという報告2-5)はあるものの,慢性期の神経疾患患者に対して長期にわたり振動刺激や促通反復療法を実施し,その経過を追った報告はない.
今回,当センターにて約1年にわたり継続して振動刺激と促通反復療法を実施した結果,疼痛および痙縮が改善し,運動機能が向上した1症例を経験した.症状の改善だけでなく,機能訓練やADL(activities of daily living)訓練にも積極的な取り組みがみられるようになり,ADLおよびQOL(quality of life)の向上へとつながった.本症例に対し当センターで行ったリハビリテーションアプローチと症状の変化に,考察を加え報告する.
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