Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
慢性疼痛は長期間にわたって持続する痛みである.ではいったいどれくらい持続すれば慢性疼痛と言うのかというと,一般に4か月以上あるいは6か月以上持続する痛みと考えられている.しかし,明確な時間的な区切りがあるわけではない.
組織の損傷,例えば創傷や炎症が起きると痛みが発生する.それは急性疼痛である.しかし,組織の損傷が何か月も持続している場合は,慢性疼痛なのか,それとも急性疼痛が持続しているのか判断が難しい.アメリカ麻酔学会(ASA)が発表したガイドラインでは,「慢性疼痛は,がんによるものを除き,慢性的な病態に付随するか,あるいは組織損傷の程度から推測される期間や治癒機転の範囲を超えて持続する痛みであり,個人の機能や健康を脅かす状態である」1)と定義している.
慢性疼痛で最も一般的な痛みは腰痛や頸部痛や膝痛である.これら筋骨格系の疼痛は高齢者の半数以上が程度の差はあれ慢性的に有しているとも言われている.また,神経障害性疼痛も慢性疼痛の一つであり,疼痛の強さや生活への支障や治療の困難度からいうと,より重要である.神経障害性疼痛には糖尿病性末梢神経障害や帯状疱疹後神経痛など末梢性のものから,視床痛など中枢性のものまで広範囲に及ぶ.さらに,慢性疼痛には片頭痛や線維筋痛症など特異的な疾患群も含まれる.
このように一口に慢性疼痛といってもさまざまな病態が含まれており,慢性疼痛全体に対応するような治療法のEBMやガイドラインの作成はそもそも困難である.だから,慢性疼痛のガイドラインは,それぞれの疾患に対して独自に作られたものが多い.例えば,腰痛治療のガイドライン2,3),三叉神経痛に対するガイドライン4),神経障害性疼痛に対するガイドライン5-7)というように,それぞれ対象とする疾患群に対して作られている.さらに,作成にあたる専門分野によっても異なったガイドラインが作られている.麻酔科学会のガイドライン1),神経治療学会のガイドライン8),心身医学的なガイドライン9)などがそうである.
ここでは,最近ASAが発表した「慢性疼痛管理実践ガイドライン」1)と国内の2つのガイドライン8,9)を軸に,慢性疼痛アプローチにおけるEBMやガイドラインについて考えてみたい.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.