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はじめに
近年,懸垂式トレッドミルを用いた歩行練習の有効性に関する報告がみられる1-3).この装置は,対象者を上方へ懸垂することで体重を部分免荷しての歩行練習を行うことを可能にする.すなわち,身体負荷を軽減し,重度な患者でも歩行中の体重支持や下肢の振り出しを行いやすくする.また,懸垂により転倒が生じず,安全性も高い.
脳卒中片麻痺患者に対する訓練法として課題指向的アプローチが有効とする報告がある4-6).藤田ら7)は,課題指向的アプローチの概念は,1つの運動課題に着目し,その運動課題に特有な問題の解決を試みて,課題遂行を学習することであると述べている.さらに,理学療法士が片麻痺患者に対して汎用する背臥位での運動が歩行という立位での運動課題にどの程度の効果が得られるか考え直す必要があるとも述べている.また,長谷8)は,片麻痺患者が歩行を学習するためには,平行棒や補装具などを用いて歩く場面を設定し,その反復によって課題特異的効果を得ることが重要であると述べている.Frenchら9)によるメタアナリシスでは,脳卒中患者に対する下肢の反復訓練に関する有効性が確認されている.こうした考えによれば,歩行という運動課題の改善には歩行そのものに特化した運動療法を行うことが重要である.そして,前述した懸垂式トレッドミルの利点は,重度の患者にも歩行の反復練習を十分に与えることができ,そのような観点からも有効な装置と言える.しかし,懸垂式トレッドミルは高価であり,普及するまでには至っておらず,重度片麻痺患者の歩行練習には難渋しているのが実状である.
産業医科大学病院(以下,当院)では,(株)有薗製作所と共同開発した懸垂式歩行器(BWSウォーカー®)を日常臨床で使用しているが10),これは懸垂式トレッドミルと比較し大幅に安価(市販価格38万円)な点がメリットである.また,その機構は,上方へ懸垂し部分免荷を行う点で懸垂式トレッドミルと同様だが,より簡便に操作が可能であり,病院内廊下のような通常の歩行路でも行えるという利点がある.本機器のこのような特性を生かすことで,発症早期の脳卒中片麻痺患者にも歩行練習という課題指向的アプローチを高密度で実施することが可能であると考えられるが,その訓練方法や効果に関する報告はない.
今回,懸垂式歩行器を脳卒中発症20日後の亜急性期右片麻痺患者に6日間使用し,顕著な歩行能力の改善を認めたので報告する.
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