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はじめに
高次脳機能障害への臨床心理的な取り組みは,リハビリテーション病院での脳血管障害などの局所脳損傷に伴う注意障害や視知覚障害に対するアプローチ1-3)から始まった.しかし,当初は作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)が中心であり,心理士は評価など,限定的な関わりにとどまることが多かった.
1990年代から名古屋市総合リハビリテーションセンター(以下,名古屋リハ)4)や神奈川県総合リハビリテーションセンターにおいて,外傷性脳損傷を中心とした高次脳機能障害者への包括的な支援が行われるようになった.その後,国の高次脳機能障害支援モデル事業(2001~2006年,以下,モデル事業)に伴って,臨床心理士が高次脳機能障害者の認知リハビリテーションに積極的に関与するようになっていった.
モデル事業において,拠点病院における職種別訓練関与時間を調査した結果5)によると,高次脳機能障害者の訓練に最も多く関与していたのが心理士で,次いでOT,STの順であった.心理士の業務内容別関与時間はカウンセリング40.9%が最も多く,次いで訓練36.4%,評価22.7%であった.OT,STは評価と訓練のみに関与しており,カウンセリングは心理士固有の業務であった.また,モデル事業により,多くの拠点病院に心理士が新たに配置された.
高次脳機能障害に対する臨床心理的支援とはどのようなものであろうか.高次脳機能障害への認知リハビリテーションが広く行われているが,これに対して先崎6)は,「認知リハビリテーションと心理療法とは,脳損傷者の場合には,互いに車の両輪のようなもので切り離せないものである」と述べている.また上田7)は,認知リハビリテーションを「狭い意味では,低下した認知機能を治療あるいは補償しようとする試みのことであり,広い意味では認知障害を伴う患者の認知面,感情面,行動面の回復を試み,社会的,職業的に可能な限り最大限に機能できるように援助する試みのことである」と定義している.筆者8)は心理士が行う認知リハビリテーションを,①認知機能の回復促進と代償手段を身につけることを目標とする認知的アプローチ,②本人が障害を認識し,障害への対処法(障害を受け入れて障害とつき合う方法)を学ぶことを目標とする心理的アプローチ,③本人を取り巻く周囲が,障害を理解し対処できるように環境に働きかける心理教育的アプローチ,の3つに分類して整理した.また,回復期には認知訓練が主となるが,慢性期にはカウンセリングを主とする関わりや,医療からより現実的な生活や就労への移行をつなぐ役割も果たしていることを明らかにした.
高次脳機能障害への心理士の関与がモデル事業に連動して飛躍的に増大した背景には,リハビリテーション心理士会(後のリハビリテーション心理職会,以下,心理職会)の活動9)が挙げられるだろう.本会は,心理臨床学会における自主シンポジウムの集まりを土台にして,2002年3月に設立された.設立当初の会員は95名であったが,2010年2月現在は168名に増加している.
過去8年間に心理職会が主催したシンポジウムや講演会,ワークショップのテーマのほとんどが高次脳機能障害に関連する内容であった.それらを分類すると以下のようになる.
①高次脳機能障害の診断・評価
②認知リハビリテーションおよび訓練課題
③精神症状・行動障害とアプローチ
④高次脳機能障害患者・家族に対する心理教育,家族支援
⑤後天性脳損傷児(小児)へのアプローチ
⑥高次脳機能障害と発達障害や統合失調症との比較
高次脳機能障害に関わる臨床心理的支援の内容が網羅されているといっても過言ではないだろう.
以下,取り組みの実際について,評価,認知的アプローチ,心理的アプローチ,環境へのアプローチに分けて述べる.ただし,障害認識は認知面と心理面の両面からアプローチをする必要があるため,実際の場面ではこれらを切り離して捉えることは難しい.
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