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はじめに
ポリオ(急性脊髄灰白髄炎,脊髄性小児麻痺)は主として脊髄前角細胞に感染し,その神経支配領域に弛緩性運動麻痺を来すウイルス性疾患である.乳幼児期に好発し,欧米では1950年代前半,わが国でも1960年頃に大流行をみた.その後,ワクチンの導入により,わが国では1960年代半ばよりほとんどその新たな発生をみていない1).しかし,当時の大流行から数十年が経過した近年,ポリオ罹患による麻痺から一旦回復,あるいは麻痺の後遺症をもちながらも日常生活を送っていた患者らに,新たな筋力の低下や筋肉の萎縮,筋肉痛や関節痛,しびれ,異常な疲労などの症状が出現する病態が報告され,ポリオ後症候群(post-polio syndrome;PPS)として知られるようになった2-4).新たな筋力低下症状を呈するPPSの発症は,ポリオ罹患者の28~64%と報告されており5),加齢とともにその発症率は増加している.欧米では,1970~80年頃よりポリオ罹患者の遅発性障害やPPSに関する研究がスタートしたが,わが国では1990年代後半~2000年にかけてPPSの研究が本格化した6-13).これは,わが国のポリオ大流行が欧米より約10年遅れていること,また,PPSに対する社会的認知が進んでいなかったことが影響している.現在,ポリオ患者自らが全国各地に患者会を結成し,活発な活動を展開している14).
PPSにおける筋力低下は,単なる加齢現象ではなく,PPSの病態を特徴づける重要な要素である15).ポリオ罹患者における経年的な筋力低下の報告は多いが2,16-26),一方で,経年的には筋力は低下しない27-29),あるいは増加する30,31)という報告もあり,ポリオ罹患者における筋力低下は通常の加齢現象を反映しているに過ぎないとして,PPSという病態を否定する立場もある32,33).
PPSの病態に関連した筋力の経年的変化,特に,筋力の低下割合や速度に関する知見は,ポリオ罹患者の今後の状況を予測し,対応策を考えるうえで必要かつ重要な情報である.
本総説では,ポリオ罹患者における経年的な筋力変化に関する文献をレビューし,現在の知見,研究方法論上の問題点,ならびに今後の課題について述べる.
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