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はじめに
わが国は世界に類をみない高齢社会を迎えつつあり,高齢化の進展,疾病構造の変化,医療技術の進歩などにより,医療に求められるものが高度化,多様化している.高齢社会の進展に伴い,口腔管理が自立していない高齢者の数も増加しているが,QOL(quality of life)や生きがいの観点から,適切な口腔機能を維持・改善することは重要な課題であると考えられる.
高齢者が要介護状態になると,認知機能やADL(activities of daily living)が低下するのみならず,生活への意欲も衰える.この状態で口腔ケアを怠ると,口腔内の汚れは蓄積し,口腔機能や味覚の低下を来し,結果として食欲も減退する(図1).また,それに伴い摂食量が減少すると,水分や栄養が十分摂取できず,結果として身体機能の低下や疾患が悪化するという悪循環が生じる.「食」は人間としての尊厳を守るための大切な営みであり,口腔ケアは「食」を支える助けとなる.すなわち,口腔ケアは,単に口腔を清潔にするのみではなく,口腔を介して行われる「食べる,話す,呼吸する」という,人間の基本的な生命活動を助ける大切な役割がある.
看護教育の指導者であるヴァージニア・ヘンダーソンは,その著書「看護の基本となるもの」1)のなかで「患者の口腔内の状態は看護ケアの質を最もよく表すものの一つである」と記述し,口腔ケアは古くから看護の基本とされてきた.一方,1999年にLancet2)に発表された論文では,英国の施設に収容されている高齢者の口腔状態の悲惨さについて述べられ,わが国だけではなく,高齢者の口腔状態は世界中で問題となっている.高齢者の口腔内をいかに改善し,QOLの向上を図るかが医療,看護,介護に課せられた大きな課題である.
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