Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
島崎藤村の『破戒』―心身症としての肺結核
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.1226
発行日 2008年12月10日
Published Date 2008/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101408
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明治39年に発表された島崎藤村の『破戒』については,未解放部落出身の青年の苦悩を描いた社会小説とする見方や,主人公の内的な葛藤を描いた告白小説とする見方など,さまざまな議論がなされてきたが,この小説にはもう一つ,医学小説という側面があるように思われる.というのも,『破戒』には,主人公瀬川丑松の幻聴をはじめ,アルコール依存症や精神遅滞を思わせる人物が描かれているからである.
なかでも興味深いのが猪子蓮太郎の「肺病」に関する記述である.猪子蓮太郎は自ら未解放部落の出身であることを公言し,この不当な差別に対する闘いを挑んでいる社会活動家だが,蓮太郎の肺結核に関する記述には,心身相関的な見方や病跡学的な認識をうかがうことができるのである.
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