名詩鑑賞
—島崎藤村—椰子の實
長谷川 泉
pp.44-45
発行日 1950年3月15日
Published Date 1950/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906626
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詩人島崎藤村の名は,處女詩集「若菜集」と切りはなすことが出來ない。「若菜集」が出たのは明治30年であつた。近代文學史上に詩歌全盛時代をつくる先驅となつたこの詩集は「文學界」と「帝國文學」などに發表された長短51の詩篇で編まれものであつたが,この詩集の出現はまさに雪間に萠え出た若菜のようにすがすがしい初緑を近代詩の上にのこした。
藤村がのちに回顧してのべる言葉をかりるならば「若菜集」によつてもたらされた詩歌の曙にあたつては,あるものは古の豫言者のごとく叫び,あるものは西の詩人のごとく呼ばわり,いずれも光明と新聲と室想に醉つたようであつた。青春のいのちは口唇にあふれ,感激の涙は頬をつたつた。清新の氣のみちあふれた思潮が高聲にうたれれた。近代の悲哀と煩悶が狂うようにうたわれたのである。
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