連載 詩人の話・2
島崎藤村
山田 岩三郎
pp.50-52
発行日 1961年8月15日
Published Date 1961/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911457
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島崎藤村は昭和18年8月,72歳で大磯の寓居で逝くなられた。その年の2月まで,東京?町六番町に住まわれていました。私が,六番町のお住居に,藤村を訪問したのは,この年よりさらに2年前の昭和16年でした。
その時の用件は,藤村の書かれた色紙を,高村光太郎が所望されて,その応諾を得るべく参上したのでした。前に“詩の話”の中にも書きましたが,ちょうどこの時私たちが刊行していた“詩宰府”という雑誌の同人が,“詩の展示会”を銀座の紀の国屋書店ギャラリーで催おしていたのです。藤村も,詩句を書いた色紙を飾らしてくださった。いまその詩句は記憶にないが,筆墨のたたずまいもさりながら,まことに気品のある色紙でした。ことに,歌や俳句とはちがった独自の色紙の字くばりは,他の何10点とあるものには見られない特色がありました。色紙の左にひろく余白を残し,右寄りに詩句が2行,藤村の個性ある王羲之風の楷書で書かれてある。なるほど,現代詩を筆墨で色紙にとどめるには,かようになすべきか。と,私などは教えられる思いでした。会場でこれを見た高村光太郎が,ぜひにと所望したのです。
六番町の藤村宅に,私が訪問したのは夜でした。
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