文豪と死
島崎 藤村
長谷川 泉
1
1医学書院
pp.312
発行日 1977年4月1日
Published Date 1977/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201340
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島崎藤村(1872〜1943)は「若菜集」の詩人としてだけでなく,田山花袋と並んで日本の自然主義の確立者として文学史に位置づけられている.瀬川丑松に托して出身の秘密を告白するまでの苦悩を,信州の自然を背景に描き出した「破戒」(明治39)が,そのきっかけを作った.花袋の「蒲団」が出たのはその翌年であった.「破戒」と「蒲団」の2作によって,日本の自然主義はフランスのゾラなどの模倣の域を脱してほんものになった.
「破戒」には社会的なスケールと広がりがあり,解決が個人の狭いわくの内では処理できないような幅を持っていた.これに対して「蒲団」は花袋自身とその周辺をモデルにしたこともあって,私小説的な傾斜を示すものであった,小市民生活の中に押し込められた薄汚れた官能が,当時としては露骨な描写として注目された.日本の自然主義は「破戒」の線上に発展することなく「蒲団」の線上に発展することになってしまったところに,私小説的なのめり込みと限界を持つことになった.
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