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私の生まれた年は,日本リハビリテーション(以下,リハ)医学会が創立した年と同じである.リハ医学会とともに育ち,リハ医を目指して医学部に入り,医師になって20年,リハ医のひとりとしてリハ医療に携わってきた.しかし,入学した当時の大学にはリハ医学の講座はなく,研修医時代にも「リハって医師の仕事?」という冷ややかな周囲の目線を感じながら,整形外科学教室内に理学診療科担当として身を寄せながら,でも志は大きくもって研修に励んでいた.医局もない,研究費もない,何もない状態のなかで,私にとって幸運であったのは,RJC(Rehabilitation Joint Conference)を通じてリハを志す多くの医師と知り合えたことと,私を一から導いてくれた前教授の故森義明先生の存在である.先生には,診療技術ばかりでなく,多くの教えをいただいた.先生は多くの人に惜しまれながら昨年春に他界された.ここで私は,先生への追悼を述べようというのではない.しかし,昨今のリハ医療を取り巻く社会情勢を鑑みると,先生が生前に私に対して言っていた言葉が思い出されてならない.
生前,先生は「リハ医は『大医』であれ」とよく私に言われた.「小医,中医,大医」の『大医』である.この言葉は,中国のことわざで,「小医は病を癒し,中医は人を癒し,大医は国を癒す」という意味である.しかし,先生は「病気ばかり診ているのは小医だ.機能・能力障害を含めて診る(つまり人を診る)ことができるのは中医だ.『大医』はそれに加え,人の生活や地域社会での関わりまでも含めて診ることができる医師だ.」と説き,「だからこそ,リハ医を志す者は『大医』でなくてはいけない.」と述べられた.私達は先生の教えに従い,病院のなかだけではなく,障害をもちながらも病院を退院し自宅で生活していかなければならない方々が,よりよい生活を送れるようにリハ医療の側面からサポートしてきた.
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