連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・201
亡き子どもたちからのメッセージ
柳田 邦男
pp.654-655
発行日 2023年7月10日
Published Date 2023/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686202445
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ウクライナへの侵略戦争で戦争犯罪の罪に問われているロシアのプーチン大統領の罪状の1つに,多くのウクライナの子どもたちを軍隊が連れ去ったことが挙げられている。子どもたちがロシアのどこに連れていかれたのかは明らかにされていないが,一時報道されたところによると,子どもを欲しているロシアの家庭に引き取らせている。また,ウクライナ国内でロシア軍のミサイル攻撃を受けた都市でも農村でも,一般市民の犠牲者が相次いでいるが,そのなかには子どもも少なくない。子どもたちの被害は,戦争の絶対悪を象徴的に示すものだ。たとえ殺さなくても,何の抵抗する術も持たない子どもたちを,人間形成の大事な成育期に本人の同意もなく親たちから引き剝がして,自国の家庭に“提供”するというのは,人権侵害の犯罪行為以外の何ものでもない。
しかし,歴史を振り返ると,そうした国家規模の子どもに対する犯罪行為は,プーチンのロシアに始まったことではない。第2次世界大戦のさなかに,ヒットラーのナチス・ドイツもまた,ユダヤ人大量虐殺(ジェノサイド)のなかで,ユダヤ人の子どもたちを大量に抹殺するという凄絶な行為をやってのけていた。ナチス・ドイツは,自国内はもとより,ポーランド,フランス,オランダなどの占領地域に住んでいたすべてのユダヤ人を男性,女性,子どもに分けてアウシュビッツなどの強制収容所に送りこみ,次々にガス室などで虐殺したのだ。その目的は,この世からユダヤ人の存在を抹殺することだった。
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