連載 りれー随筆・113
私の亡き母へ
李 節子
1
1東京女子医科大学看護短期大学
pp.82-83
発行日 1994年1月25日
Published Date 1994/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900952
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突然の死
昨年の6月に,最愛の母が67歳で他界した。脳溢血による突然の死であった。働き者の母は,その日まで魚加工場で仕事をしていた。家で孫と遊び,近くの友人が来ていた夕刻である。「何かすごく頭が痛いのだけど,私はこのまま死ぬかも知れない……」と言った。友人が「なにバカなことを言っているの」と言いながら肩をもんであげていた。そのまま倒れて,意識を失い,生命を閉じた。幼い孫は母が亡くなったのも知らずに,母のからだに寄り添って遊んでいたそうである。最後の母のことばは「こどもがまだごはんたべていないから……」であった。
大阪の実家から母の死亡を,電話で知らされた。私は35歳になるが,母が亡くなって,はじめて「臍帯」が切断されたような気がしている。子宮の中は胎児にとって安心できる心地よい世界だと聞くが,母がこの世に存在している限りは,何も恐れることのない,子宮の中にいるような気がしていた。突然の「切断」に,どうして生きていけばよいのか,行き場の無い,喪失した自分を感じた。
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