Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『枕草子』と『源氏物語』―物の怪に対する加持祈とうの効果
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.1178
発行日 2003年12月10日
Published Date 2003/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100949
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『枕草子』(石田穣二訳注,角川文庫)の巻末近くの段には,物の怪に憑かれた女性を,一人の僧が加持祈とうで癒す次のような場面がある.
松の木立が高い邸の母屋に,四尺の几帳を立てて円座を置き,40歳ぐらいのとてもきれいな僧が熱心に陀羅尼を読んでいた.この家の主人が物の怪にひどく苦しんでいたためである.僧は,主人の物の怪を移すべき女の童に独鈷を持たせていたが,この僧が礼拝しながら読む陀羅尼も尊げである.
間もなく,女の童は身震いして,正気がなくなった.すると僧は,物の怪に退散のむねを誓わせたあげく放免したが,この時,僧が女の童に加持をして,「どうですか.気分はさっぱりされましたか」と言ってにっこり笑った様子は,いかにも立派に見える.
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