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はじめに
クリニカルパス(以下,パス)は,1980年代に米国のNew England Medical Centerではじめて診療群類別包括支払い方式(Diagnosis Related Groups/Prospective Payment System;DRG・PPS)を補うものとして導入された.パスの本来の概念は,1950年代に石油化学製品の精製プラントで多数の複雑に絡み合う工程を時間軸上に整理し,工期をコスト面も含めていかに効率よく短縮するかを検討するために考えだされた方法である.パスは,DRGごとに期待される予定在院日数以内にゴールを達成するスケジュールが示され,過剰な不効率な医療を避け,マネージドケアの範囲内で質の高い医療を提供し,患者の満足度を上げることを目標としている1).
パスの長所として,① 患者満足,② チーム医療,③ 業務改善,④ 臨床成績の向上,⑤ 在院日数の短縮,⑥ 経済的効果,⑦ スタッフ教育,⑧ ケアの質の均質化1,2)などが挙げられる.
短所は均一化の裏返しで,治療に対する効果はケースバイケースであり,パス通りにいかないものもあり,このような場合,患者を見失いスケジュールだけが一人歩きしてしまうことである.そのため,弾力的な運用やスタッフ間の十分なコミュニケーションが必要である1).
現在,実際にパスが使用されている疾患は外科,整形外科,循環器科,泌尿器科,産婦人科の手術と検査というように,急性期病院での外科系疾患の適応が多い3).
リハビリテーションの分野では,日本リハビリテーション医学会社会保険等委員会が平成13年に実施したリハビリテーション専門医の在籍するリハビリテーション施設でのアンケート調査で,パス実施状況が報告された.パスの実施状況は,実施に至らないが準備検討,準備中も含めると70%において検討,実施されている.脊髄損傷に関しては,パスを用いる対象疾患として10%を占め,骨関節・RA(関節リウマチ),脳血管障害の次に多く扱われていた.しかし,その具体的な内容や時期,効果については言及されていなかった4).
実際,脊髄損傷は,損傷高位により重症度,介護度,合併症の発生率,リハビリテーションの内容が異なり,完全損傷と不全損傷でも治療内容は大きく異なる.さらに,頸髄損傷では,呼吸器合併症,循環不全,褥瘡,呼吸器感染症,尿路感染症などがバリアンスの原因となる.このように,脊髄損傷ではバリアンスが多いことからパスの作成は困難と言われており5),バリアンスへの対応が必要不可欠である.
神奈川リハビリテーション病院(以下,当院)では,1999年に80床を有する脊髄損傷専門病棟が開設され,受傷後1~2か月後を中心とした亜急性期の脊髄損傷患者を主に受け入れている.当院では亜急性期の脊髄損傷患者に対しパスを活用しているが,このバリアンスの多い脊髄損傷に対し,どのようにパスを活用しているか述べていきたい.
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