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1965年に臨床ではじめて用いられたケタミンは,脂溶性がチオペンタールの5~10倍と高く,分子量も小さく(238kd),酸電離定数(pKa)7.5と血液のpHに近いため,血液脳関門を素速く通過し,麻酔作用の発現が速い。静注のほかに筋注が可能であり,この点からみると麻酔導入にきわめて適していると考えられる。
麻酔効果を得るための血漿ケタミン濃度は個人差が大きく,0.6~2.0μg/mL。一方,覚醒は0.5μg/mL以下にならないと生じないとされている。2mg/kg静注後の作用時間は10~15分であり,見当識が完全に回復するまでの時間は15~30分である1)。
また,他の静脈麻酔薬では通常麻酔導入により自然睡眠に近い状態となるが,ケタミンは,新皮質,視床における神経活動は抑制するが海馬を含む大脳辺縁系を興奮させる。このため,意識消失と同時に種々の神経活動がみられ,解離性麻酔薬とよばれる特異な麻酔薬である。すなわち,意識は消失しているが,開眼や眼振,角膜,咳,嚥下反射は残る。カタレプシーをみることもある。
ケタミンは,興奮性神経伝達物質のグルタミン酸受容体の一つであるNMDA受容体の非競合的拮抗薬であり,意識消失に満たない量の投与でも鎮痛効果が発揮される。また,呼吸抑制作用が少なく,交感神経系を刺激し,循環安定作用など,多数の長所がある(表1)。にもかかわらず以前は覚醒時の興奮などの精神症状,術後悪心・嘔吐(PONV)などの悪い面ばかりが強調され(bad drug),使用される機会は少なかった。
しかし,NMDA受容体拮抗薬であるケタミンは,術中のみならず術後鎮痛にも有用であると再評価されつつあり,その使用は今後拡がる可能性がある。
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