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はじめに
在宅高齢脳卒中後遺症者の日常生活活動(Activities of Daily Living;ADL)自立度の向上を図る場合,潜在的な活動能力(以下,「できるADL」)に,実際に行っている活動レベル(以下,「しているADL」)をできるだけ接近させ,それらの差(以下,「ADL差」)を小さくすることが在宅におけるリハビリテーションでは必要な視点となる1,2).よって,「ADL差」を規定している要因間の関係を明らかにすることが重要となる.
在宅脳卒中後遺症者のADLには,身体機能のみならず心理や環境要因が関係するとされており,心理的要因として意欲3-7)が,環境要因として介護者の介護知識8,9),過剰介護10),住環境11)などが報告されている.さらにこれらの原因変数間の関係として,環境が意欲に影響を及ぼすことも指摘されている12).よってこれらの報告から,各先行研究で指摘されている2変数間の直接的影響とともに,環境要因がADLに及ぼす影響として心理要因を介する間接的影響の存在も推察される.つまり,環境要因が心理要因に影響を与え,それがさらにADLに影響を及ぼすことが考えられる.また,ADL自立度が低い者ほど「ADL差」が大きいこと13),ならびに「ADL差」の規定因としても前述の環境要因や心理要因が考えられること14)から,「ADL差」に影響を及ぼす要因としても上記の各直接効果や間接的効果が推察される.しかし,前記先行研究ではADLの評価として,「しているADL」あるいは「できるADL」を測定しており,在宅脳卒中患者における「ADL差」の規定因として,これらの各直接的影響や間接的影響は明らかにされていない.
一方,心理・環境などの要因は構成概念的性格が強く,限られた観測変数で必ずしも精度良く測定が可能とは限らないため,測定誤差を考慮した扱いが望ましい.しかし,前述の先行研究で用いられている解析法は,t検定4,7)や相関分析4),分散分析10),数量化理論7),重回帰分析4),ロジスティック回帰分析6,11)などにとどまっており,2つの観測変数間の直接的関係を分析しているに過ぎない.共分散構造分析(別名,構造方程式モデリングStructual Equation Modeling;以下,SEM)は,構成概念としての複数の潜在変数および間接効果を導入し,観測変数の変量内誤差により因果係数の希釈化を修正することが可能である15).
本研究では,在宅高齢脳卒中後遺症者の「ADL差」に影響を及ぼす意欲・自己効力感などの心理要因と,過剰介護・介護知識・物的環境などの環境要因間の間接的影響も含めた因果モデルを設定し,その関係をSEMにて検証することを目的とした.自己効力感は,特定のある結果を得るために必要な行動をどの程度確実に行うことができるかという個人の可能性の認知であり16),セルフケア行動の先行要因であるとともに同行動への意欲に関連する17).したがって,自己効力感がセルフケア能力を効果的に開発させるための要因となることから同変数を因果モデルに取り入れた.
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