Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
サルトルの『イヴァンの少年時代』評―若き戦士のPTSD
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害者系
pp.86
発行日 2003年1月10日
Published Date 2003/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100739
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1963年,サルトルはタルコフスキー監督の映画『イヴァンの少年時代』を絶賛する評論を発表しているが(海老坂武訳,『サルトル全集・シチュアシオンⅦ』所収,人文書院),そのなかでサルトルが注目しているのは,戦争によって心の傷を受けた少年の性格形成に関わる問題である.
この映画の主人公イヴァンは,戦争で母親を亡くした後,勇猛な戦士となってナチスと戦う少年である.サルトルは,イヴァンのことを「小さな英雄」とする一方で,「誰にもまして罪のない,誰よりもいじらしい戦争の犠牲者」と規定する.イヴァンは,戦争の最中「暴力によってこしらえられ」,暴力を内面化した人間なのであり,殺人の衝動を借りてしか自己肯定できない人間になってしまったのである.そんな彼には,自殺念慮をはじめ,「夜が武装を解きほぐし,眠りの中で年相応の優しい気持に帰るときにも,恐怖がまたよみがえり,忘れたいと願っている思い出を再びなぞる」といった症状も出現していた.
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