Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
オンダーチェの『アニルの亡霊』―戦争孤児のPTSD
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.802
発行日 2006年8月10日
Published Date 2006/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100365
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2000年に発表されたマイケル・オンダーチェの『アニルの亡霊』(小川高義訳,新潮社)は,内戦下のスリランカを舞台にした小説であるが,そこにはPTSD(外傷後ストレス障害)を思わせるラクマという少女が登場する.ラクマは12歳の時に両親が殺害されるのを目撃して以来,孤独で寡黙な少女になったのである.
ラクマは,両親の殺害から1週間後,内戦で親を亡くした子供たちを収容している政府系の施設に入れられた.しかし,「両親を殺されたショックを全身に浴びた少女は,言語と運動の機能が幼児なみに退行してしまっていた.」少女はその施設で1か月以上「人を避けて暮らした.」少女は「すべて自分に押し寄せるものを拒もうとしていた」かのように緘黙かつ無反応で,力ずくで追い立てられなければ,戸外の運動にも行かなかった.
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