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はじめに
義手は,昔から失われた手を外見的または機能的に代償する目的で作られ使用されてきた.そのため義手は,事故や疾病などにより上肢切断を余儀なくされた者にとって,その失われた機能を代償するための重要な手段である.しかし,上肢のなかで手は実に繊細な器官であり,それゆえにその機能を完全に補完できる義手は存在しない.したがって,上肢切断者自身のライフスタイルに合わせて必要な義手を選択し使用しているのが現状である.
日本では,1976年に電動義手WIMEハンド(Waseda-Imasen Myo-electric Hand)MEH-11型が開発されたが,普及には至らず筋電義手そのものもほとんど作製されなかったと言える.
全国の代表的な義肢製作所を対象に1986年と1996年において年間に製作された義手を調査した中島ら1)の報告では,日本における義手の約90%が装飾義手,7~9%が能動義手であり,電動義手の作製本数に至っては,1986年に1本,1996年に8本であった.川村2)が1999年に行った近畿地区における上肢切断者のアンケート調査では,義手使用者の義手の種類は,装飾義手80%,能動義手21%,電動義手1%(2種類以上の義手の使用者が17%)であり,やはり装飾義手の占める割合が著しく高かった.しかし一方では,筋電義手の装着希望の有無を調べたところ,76%の義手使用者が筋電義手を使用したいと考えていることが明らかとなった.つまり,日本において多くの上肢切断者は,外見のみを代償するのではなく,装飾性と機能性との両方を備えた義手を望んでいることがうかがえる.現在のところ,装飾性と機能性を備えた義手は筋電義手のみである.
近年は,日本においても筋電義手が注目されるようになり,徐々にではあるが,わずかに筋電義手使用者が増えている傾向にある.
従来,日本において機能性に優れた義手と言えばフック型能動義手が一般的であった.能動フック義手は安価であり,しかも巧緻性が必要な作業については,その有用性は確認されている.しかし,外観が悪く,社会生活で使用する場合において使用者に敬遠されてきたことも事実である.
一方,筋電義手は装飾性と機能性の両方を備えてはいるものの,能動義手に比べて重量が大きく,誤動作が生じたり,巧緻性に劣ったり,さらに高価であるといった課題を有している3-5).しかし一方では,筋電義手は,能動義手のようなハーネス・ケーブルシステムによる上肢の自由度の制限はなく,快適に使用できる6,7)といった利点を有しており,両手動作を多用する日常生活動作における有用性は高いと考えられる.事実,筆者らは,1999年から前腕切断者に対し筋電義手訓練を積極的に提供し,筋電義手が日常生活や社会生活で十分に活用できることを確認してきた6,8-12).また,ある程度の装飾性を備えているため,義手使用者の心理面に対しても良い影響をもたらしていることが推測される.
本研究の目的は,片側切断者において,筋電義手と能動フック型義手の両手作業に関する日常生活動作を両手作業遂行達成時間で比較することにより,筋電義手が日常生活の両手作業に有効な義手であることを検証すること,また,筋電義手と能動フック型義手を日常生活や社会生活で使用する場合の心理的影響について,福祉機器心理評価スケールThe Psycho-sosial Impact of Assistive Devices(PIADS)15-19)を用いて比較検討を行うことである.
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