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はじめに
Locked-in症候群(以下,LIS)は,1966年,PlumとPosnerにより紹介され,Monte Cristo syndromeとも言われる1).それによると,「四肢麻痺・下位の脳神経麻痺・無言症を伴うが,瞬目や垂直方向の眼球運動は保たれている」とある.それ以来,一臨床概念として受け入れられてきた.橋底部の錐体路の障害で血管性障害,なかでも脳底動脈閉塞による梗塞が大部分である.その他に,出血,腫瘍,頭部外傷,central pontine myelinolysis,神経ベーチエット病,感染後多発神経障害,ヘロイン乱用,ワクチン後脳炎,橋膿瘍,心停止,多発性硬化症,空気塞栓,マイナー・トランキライザー中毒などによっても起こるとされている2).
Haigら3)は,27名のLIS患者について調査した.その結果,そのうち24名が生存し,発症からの経過が12.5年であるのが最長であった.生存者のうち17名が在宅療養をしており,コミュニケーションを促進するため10名の患者が電気機器を使用していた.退院後の医療的問題としては,尿路感染,肺炎,褥瘡,尿路結石,消化管出血,深部静脈血栓の順にあげられた.
Rechlin4)は,コミュニケーション導入の成功例を数例報告している.代表例として19歳のtotal locked-in syndrome症例は,早期に気管切開が施行された.鎮静剤は投与されていた.最初のコンピュータを用いたコミュニケーション機器の導入は不成功に終わった.しかし,鎮静剤を減量,脳波は明確な変化を示した.2週間後に再度コミュニケーション機器の導入が試みられ成功,患者は自分の名前を書くことができた.脳波は典型的なα波を示していた.14日以内にコミュニケーション機器を十分使えるようになった.4か月後,リハビリテーション・センターに運ばれた.患者は,眼球の外転とともに口を開けられるようになった.右親指の外転と右手の屈曲が時々行えるようになった.車いすに座り,数語をしゃべれるようになった.コミュニケーション機器は9か月使った.コミュニケーション機器は,眼球の垂直方向の動きと瞬きで赤外線スイッチが用いられた.さらに筆者はつけ加えて,驚くべきことに,コミュニケーション機器導入患者の誰一人として,落胆的でなかったとしている.患者は,この病気に興味をもっており,自分たちの状況や薬などに批評を述べることが多かったとしている.
LISの報告はあるが,コミュニケーション機器の長期使用例の報告はみあたらない.今回,長期にわたりLISに対してコミュニケーションエイド(以下,CA)と環境制御装置(以下,ECS)を導入し,患者のQOL(quality of life)の向上や介護者の負担軽減につながった症例などを通して検討する.
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