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Locked-in症候群
渡辺 誠介
1
1千葉県立衛生短大
pp.647
発行日 1983年7月1日
Published Date 1983/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543202816
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最近,臓器移植や尊厳死の問題をめぐって再び死の判定基準が話題になっている.いやな言葉だが植物人間というのは,何らかの形で栄養を補給すれば生存は可能だが,四肢は完全に麻痺しており刺激に対する反応がほとんどなく,こちらからの呼びかけにまったく応答がない状態をいっている.頭部外傷や脳血管障害あるいは麻酔事故などで起こり,診断名としては大脳皮質を外套にみたて皮質の機能を失ったという意味で失外套症候群(apallic syndrome)とか,無動・無言で眼で物を追うことはあるが命令には反応がないということで,無動性無言(akineticmutism)と呼ばれている.
locked-in症候群は無動性無言のようにみえるが実は大脳皮質の機能は保たれており,こちらの質問は理解できる.ただ口を動かすとか手足を動かすなど遠心性の系路が脳幹底部の病変で遮断されているので,わずかに残された眼球の動きとまばたきで応答するしかないのである.つまり患者さんに何か話しかけて,わかったら眼を閉じてくださいというと,応答としてまばたきをしてみせてくれる.このような患者さんの前で生命予後のことなどうっかり話したらたいへんである.私は読もうと思いながらまだ読んでいないが,デュマの「モンテクリスト伯」の老人がこの状態だそうで,そのためモンテクリスト症候群と呼ぶ人もいる.
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