今月の主題 神経内科の動き
知っておきたい症候群
"locked-in" syndrome
田崎 義昭
1
1北里大内科
pp.1374-1375
発行日 1974年11月10日
Published Date 1974/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402205638
- 有料閲覧
- 文献概要
Cairnsら(1941)により命名されたakinetic mutism無動性無言は,全く無言で眼球運動を除いて自発的な身体の動きが一切みられない特異な状態を意味している.本症候群は,動かず,無言であっても開眼し,注視したり,追視したりすることから一見覚醒しているようにみえるが,意識がなく適切な反応を示さない.すなわちakinetic mutismの基本型は,網様体賦活系の部分的破壊にもとづく意識障害の一型であるとされている1).本症候群は,他に大脳皮質前帯状回,脳梁の病変および大脳の広汎な障害でも発生する.この病態では,皮質脊髄路のような随意運動機能は保たれ,話すこともできるはずであるが,高位機能の障害によって無動,無言に陥っていると理解されている.これに対して"locked-in" syndromeは,外見上はやはり無動,無言であり,眼を動かすのみであるが,意識は清明なものをいう.つまり,中脳性の眼球運動以外の随意運動は,遠心路の障害のためにすべて麻痺しているが,意識や精神機能はよく保たれている.すなわち"locked-in" syndromeは,akinetic mutism,失外套症候群(das apallische Syndrom)などとは厳密に区別さるべきであり,本症の認識は医療上,人道上にもきわめて重要である.
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.