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はじめに
リハビリテーションとは,「障害者が一人の人間として,その障害にもかかわらず,人間らしく生きることができるようにするための技術および社会的・政策的対応の総合的体系」である.上田1)は,リハビリテーションの目的は全人間的復権,すなわち人間として生きる権利の回復であり,対象は疾患ではなく障害(疾患により引き起こされた生活上の困難・不自由・不利益)であり,方法としては障害者の自立性の回復に大きな価値を置き,教育的な性格をもつものであるとしている.
痴呆症(認知症)患者に対するリハビリテーションの目標は,痴呆により自己判断が難しくなり,自立した社会生活も困難になっていく患者の生活の質をできるだけ保つことである.そのためには,常に何を目標にリハビリテーションやケアを実施しているのかを考慮しつつ,多岐にわたる包括的なアプローチを実施する必要がある.その際に,評価する主要な領域は,認知機能,行動障害・精神症状・感情障害など,日常生活活動,家族の負担や介護資源の利用,さらには患者や介護者の生活の質や満足度などで,痴呆症患者のリハビリテーションはいずれかの側面の改善や増悪の緩徐化を目標に行われるべきである2).
痴呆症患者に対して種々のアプローチが実践されているが,特に介護者教育や適切な社会資源の利用はより実際的で,博野3)が強調して述べているように,痴呆症患者に対するリハビリテーションは決して「訓練して障害を治すこと」ではないと思われる.
痴呆症患者を支えるうえで最も数が多く,重要な役割を担う介護家族が,痴呆の正しい知識,痴呆症患者への適切な介護技術,適切な介護環境のあり方,社会資源やその制度を正しく理解し,実践することは,痴呆症患者の心身の安定だけでなく,介護家族の生活の安定にもつながる.
しかし,多くの介護家族は痴呆症患者を介護するのが始めての経験であることが多く,また,痴呆であるのかどうかの気付きの遅れ,介護家族の間違った介護のために痴呆症患者をますます混乱させ,いわゆる問題行動が頻繁になり,在宅介護が困難となり,施設入所を望むという経過をたどることは稀ではない.このような介護家族にできるだけ早い時期に介護にかかわる教育的な関わりをもつことは,介護家族にとっても痴呆症患者にとっても大切なことである4).
また,家族に必要な社会資源などのサポートの程度と患者が在宅で過ごせる期間との間に関連があることは述べるまでもない.一方的に原因を家族に求めることは慎むべきであるが,家族の受容,理解が不十分な場合には,患者に反応性に幻覚,妄想,心気,抑うつ,不安・焦燥,易怒性などが出現し,悪化する場合もある.特に在宅介護の痴呆患者の場合,家族の負担をできるだけ軽減し,また患者の残存機能を生かすためにも家族に適切な情報を与え教育することが必要である.
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