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はじめに
私たちの生命を維持するためには,食べ物を摂取し栄養を吸収する一連の消化器機能が必要である.それは在胎8週ほどから嚥下反射が出現し羊水を飲み排泄することから始まり,食欲として天寿を全うするまで持続する.しかし,高齢者の場合,さまざまな疾患や環境の影響で,「食」を絶たれてしまう場合がある.高齢者の80%以上は日常生活のなかで「食事」を楽しみにしており1,2),「食」は生命維持のほかにも,ADL・QOLの維持・向上,健康寿命の増大につながる重要な要素である.
団塊世代が後期高齢を迎えようとする現在,75歳以上の総人口の割合は12.9%であるのに対し3),近畿大学医学部附属病院(以下,当院)に入院している75歳以上の割合は25%で,入院患者の高齢者の割合が増加している.その結果,転倒や肺炎など,本来治療対象とした疾患以外の弊害がインシデント・アクシデント報告により増加していることがわかる.
転倒は低栄養と関連があり4),ADLやQOLを低下させる5).転倒後は身体的影響だけではなく転倒後症候群により精神的影響も加わるため,外傷がなくとも繰り返す転倒に恐怖を抱き,外出や散歩を控えるため活動量の制限を来し,身体的虚弱(フレイル:fraily)が進行してしまう.
肺炎は高齢者の死因第3位で,高齢者の肺炎の60〜70%は誤嚥性肺炎によるものであり6,7),その原因は摂食機能障害だけではなく,低栄養と免疫力低下の問題も関係する8).入院患者の将来推計によれば,今後も肺炎で入院する割合が増加すると予測され9),誤嚥性肺炎の患者が増加することが示されている.誤嚥性肺炎を予防するためには,低栄養と摂食機能障害の関係が深く,栄養と嚥下を切り離すことはできない.
本稿においては,低栄養と摂食機能障害が理学療法へ及ぼす影響と,理学療法の介入例について説明していく.
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