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はじめに
運動器である骨格筋は,ヒトの体重の約40%を占める最も大きな組織である.骨格筋の組成の多くは水分(約76%)であるが,それ以外の主要構成成分は蛋白質であり,約20%を占める.したがって,骨格筋は蛋白質(アミノ酸)の貯蔵庫の役割も果たしている.血液中には低濃度であるが一定量のアミノ酸が常に存在し,絶食などでアミノ酸を摂取できないと筋蛋白質などを分解して血液中へ供給する.おそらく,このアミノ酸は脳へ供給され,神経伝達物質などを合成するために使用されるようである.
近年の研究において,脳機能を正常に維持するためにアミノ酸が重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある.そのなかでも,特に分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids:BCAA,ロイシン,イソロイシン,バリン)の機能について注目されており,脳におけるBCAA不足は自閉症の原因になることが明らかにされた1〜3).脳機能のためにも,正常な骨格筋(筋蛋白質)量を維持することは重要である.
骨格筋の主要構成成分が蛋白質であることより,筋肉を作るために食事として蛋白質またはアミノ酸を十分量摂取する必要がある.体内での蛋白質合成には20種類のアミノ酸が使用されるが,そのうちの9種類は体内で合成されない,または合成されにくいため必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)とされている(表1).必須アミノ酸のなかでもBCAAは蛋白質代謝を調節する作用があり,さらに必須アミノ酸であるにもかかわらず筋組織で分解されてエネルギー源にもなる.他の必須アミノ酸が肝臓でしか代謝されないのと対照的に,BCAAの分解は筋肉で開始されるので,BCAAが筋肉と関係の深いアミノ酸であることが推察される.本稿では,BCAAの筋肉における生理作用と代謝調節系について解説し,運動トレーニングによる筋蛋白質合成促進に有効な蛋白質・アミノ酸摂取法についても最新のシステマチックレビューを引用して解説する.
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