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はじめに
脳疾患発症後の後遺症に対して,脳の神経可塑性を調整し,脳機能の回復を促進する可能性をもつ新たなトップダウンアプローチの戦略として非侵襲的脳刺激(Non-invasive Brain Stimulation:NIBS)1)が注目され,急速にその効果についての報告が増えている.NIBSには,反復経頭蓋磁気刺激(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)や経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)があり,その効果は多岐にわたる2).それぞれ頭皮上から刺激を行うことで脳皮質の興奮性を変化させ,治療効果を狙うものである.
脳卒中発症後の運動麻痺に対するNIBSの治療方略は大きく分けて2つある(図1).1つ目は脳卒中罹患により活動性の低下した病巣側の皮質の活動性の促通,2つ目は非病巣側の抑制である.これは半球間抑制理論3)にもとづき,脳卒中後遺症患者では非病巣側の興奮性が増大し,脳梁を介して障害側半球皮質に対し抑制がかかることが知られており4),これに対し,非病巣側活動性を抑制し,病巣側の活動性を促そうというものである.
rTMSにおいては高頻度(5Hz以上)磁気刺激で皮質活動性は高まり,低頻度(1Hz以下)磁気刺激で皮質の活動性を抑制することが運動誘発電位(Motor Evoked Potential:MEP)検査により証明されている.また,近年では高頻度の連発刺激(バースト波)を利用し,短時間で皮質活動性変化が効果として得られるIntermittent Theta Burst Stimulation(iTBS)やContinuous Theta Burst Stimulation(cTBS)が紹介され5),刺激効果に関する報告も多くみられる.
tDCSについても皮質活動性の促通・抑制により,治療効果が得られる.頭皮上に陽極・陰極の電極を貼付し,1〜2 mAの直流電流を通電することで陽極直下では皮質活動性の促通,陰極直下では皮質活動性を抑制することが報告されており,この機序を利用している.本稿では脳卒中発症後の運動麻痺に対するNIBSに関する報告について概観し,自験例を含め,報告したい.
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