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脳卒中後感覚障害
体性感覚の機能は,自己の姿勢,運動の認識と制御に始まり,接触する物体の認識,自己を取り巻く三次元空間の認識にかかわるなど多様である1).その機能は神経学的にも複雑であり,運動や注意(意識),視覚などさまざまな機能の統合により知覚システムを構成している.脳卒中後感覚障害は大脳皮質あるいは皮質下の損傷によって生じ,その責任病巣となるのは一次体性感覚野(SⅠ),二次体性感覚野(SⅡ)のみならず,それらと連絡する線維や部位,末梢からの伝導路など多岐にわたる2).体性感覚機能はヒトが協調的で巧緻性のある動作を行うためには必要不可欠であり3),その障害は結果として運動障害や協調性の低下(感覚性失調)を呈し,さらには運動学習を遅延させる4).体性感覚障害の存在は機能的帰結に負の影響を与え,上肢機能の再獲得5,6),姿勢制御や歩行7)などにも影響する.感覚機能の重要性は種々の脳イメージング研究8)や臨床研究5)により明らかにされている.しかしながら,いわゆるpure sensory stroke9)のように感覚障害が主として障害された脳卒中症例に携わらない限り,臨床ではしばしば無視されがちな機能障害となる.その原因は,ADLに関連の深い運動障害に対する介入に焦点があてられること,感覚障害の病態が複雑であること,定量的評価が困難であること,感覚機能に特化した臨床介入研究が少ないことなどが挙げられる.臨床上,単に受動的な感覚の低下のみならず,知覚,識別,統合などの感覚を高次に処理する機能の低下を呈する症例も多く,その病態の解釈は困難を極め,感覚の多岐にわたる障害に対して効果的な介入方法が確立されていないのが現状である.
体性感覚の定義は諸家によりさまざまであるが,本稿では「身体の表層組織(皮膚や粘膜)や深部組織(筋,腱,骨膜,関節囊,靱帯)にある受容器が刺激されて生じる感覚」1)の改善を目的とした介入を中心に,感覚障害に対する物理療法のレビューと電気刺激による改善の可能性,運動に関連する感覚機能における物理療法の役割と位置づけについて考察し,現状の課題をまとめる.
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