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はじめに
Stillerは2000年にICUにおける呼吸理学療法に関するレビュー1)を,2013年にはearly mobilizationに関する最新のレビュー2)を発表している.前者では,呼吸理学療法の適応に明確な根拠があるものとして,急性の肺葉性無気肺,下側肺障害,一側性の肺病変を挙げており,その他の病態では明確な根拠が乏しいと結論づけている.2000年前後では体位管理や気道クリアランスなどの呼吸(胸部)理学療法が注目を集めており,重症患者に早期離床が行われてこなかったわけではないが,現在ほど重要性が強調されていなかった印象がある.2013年のレビューでは,early mobilizationの効果として,身体能力の改善,ICU(intensive care unit)滞在期間・入院期間の短縮が挙げられている.表13)は最近の報告に基づいたearly mobilizationの利点を集約したものである.生命予後の改善には至っていないものの,期待される効果は大きく,近年の集中治療分野での関心は高い.
一方,本邦の2000年ごろの呼吸理学療法の状況を振り返ると,スクイージング4)や呼吸介助手技5)などの排痰手技が広く紹介され,ICUや急性期病棟で理学療法士や看護師を中心に積極的に用いられていった.これがきっかけで,呼吸ケアの分野に興味をもった人も少なくないと思われる.しかし,これらの手技が呼吸障害に万能かのような誤解が一部で生じた可能性も否めない6,7).2005年前後にはこれらの手技に対し,用語の混乱や科学的根拠の不足を指摘する声や懐疑的な論調もあり8,9),このブームに似た状況は沈静化へと向かう.すべてに万能な手技があるわけもなく,情報発信の教訓として,メリットばかりを強調するのでなく,① 適応と限界や中止基準の明確化,② 評価とアセスメントの重要性,③ 他の有効な手段の検討,④ 一定の技術力がない場合は行わない,など注意点やデメリットに関しても十分な説明が必要と思われる.今後,他のアプローチの普及の際には留意しておきたい.
制度面の変化では,2010年にリハビリテーションスタッフと臨床工学技士に対して喀痰吸引が認められた意義は大きい.これには日本理学療法士協会の内部障害研究班の厚生労働省への働きかけや2009年の厚生労働省「チーム医療の推進に関する検討会」の発足が大きく影響した.同じく2010年度診療報酬改定で呼吸ケアチーム加算が算定可能となり,呼吸ケアチームの活動が全国的に普及したことも,この分野のチーム医療を加速させる転換点となったと言えよう.
急性期呼吸理学療法におけるここ10年の経過では,大きく変化した点,今も変わらない部分があるが,本稿では急性期呼吸理学療法および早期離床の変遷,最近のトピックスや基本コンセプトについて解説し,今後の課題と展望についても考えてみたい.
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