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はじめに
図1は当院で1990年代後半から2000年ごろまで,約10~15年前に使用していた人工呼吸器と現在使用している人工呼吸器を示している.同じメーカーの新旧機種であるが,見かけだけでなく性能も変わってきている.
人工呼吸器が使われ始めたころ,対象患者はポリオなど重度の換気不全であり自発呼吸がない,もしくは減弱している患者であった.そのためガスを送り込む機能が主であった.その後,人工呼吸器を用いる病態が拡大し自発呼吸がある状態でも使われるようになり,人工呼吸器が送るガスと患者の自発呼吸のタイミングが合うことが必要とされるようになった.
また,人工呼吸器の設定はガス交換の改善を目的に使用されるが,動脈血酸素分圧(PaO2)や二酸化炭素分圧(PaCO2)を正常値に近づけるために1回換気量を増やす方法がとられていた.しかし,この設定では人工呼吸器による肺損傷(ventilator associate lung injury:VALI)が問題となり1),設定方法により生命予後に差が出ると報告された2).このことから,現在では人工呼吸器を設定する際には肺保護戦略と言われる治療法が用いられるようになった3,4).これは1回換気量や呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure:PEEP)を適度に調節することで肺の過膨張や換気ごとに繰り返される肺傷害を避け,肺の保護を目的として行われる設定方法である.具体的には,① 1回換気量を大きくしない(標準体重1kgあたり6~8mL程度を目安にする),② 肺胞圧とみなされる吸気プラトー圧を30cmH2O以下にする,③ PaCO2が増加している場合でも高炭酸ガス血症を容認し, 1回換気量をむやみに増加させない,④ PEEPは呼気での肺胞虚脱を防ぐために設定する,⑤ 自発換気を温存させる,などが挙げられており,死亡率の低下などが報告されている4).
このように,人工呼吸器とその使用については対象疾患の拡大や治療指針の転換,安全性の強化などに伴い進歩してきている.本稿では10~15年前の人工呼吸器(以前の人工呼吸器)と,現在主に使用されている人工呼吸器(現在の人工呼吸器)とを比較しながらその変遷を述べていく.
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