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呼吸理学療法の歴史1)
呼吸理学療法の歴史は古く,1901年に初めて「体位ドレナージが気管支拡張症患者の排痰に有効」とする臨床報告がなされた.しかし,その後は注目されず,1950年代になってようやく本格的な臨床応用が始まった.この頃に用いられた呼吸理学療法の手技は,胸壁の振動・軽打,呼吸訓練,吸入療法であり,これらが慢性呼吸不全患者を対象に用いられた.今日,呼吸管理の中心となっている陽圧人工呼吸法が臨床に導入されたのは1952年なので,呼吸理学療法の歴史は十分に古い.しかし,呼吸理学療法は陽圧人工呼吸法のような科学的な裏づけに支えられた発達の経緯をたどらなかったため,次に述べるように臨床医学的には致命的な欠陥を内在することとなった.また,わが国では呼吸理学療法の実施者である理学療法士は,歴史的な理由から主軸を整形外科領域でのリハビリテーションに置いており,慢性呼吸不全患者の治療をサポートする付随的な療法とみなされ,また看護ケアの一部ともみなされてきた.このことが,科学的な発達を妨げた原因にもなったと考えられる.
専門用語の理解
あるテーマが科学的な学問領域として確立されるには,その領域で用いられる専門用語が厳密に定義され,関係者が同じ意味で用いることが不可欠である.これは,メートルなどの単位の定義,あるいはニュートンの作用と反作用に関わる定義を思い起こせば容易に理解できるはずである.
しかし,少なくともわが国の呼吸理学療法では,専門用語の定義,実施されている手技については,施設によって,また理学療法士によって異なっているのが実状である.さらに,これらの違いを統一する動きよりも,各人の違いを主張する傾向が根強く存在することは否定できない.最近では,従来の呼吸理学療法で用いられてきた専門用語や呼吸生理学を理解しているとは思えない「スクイーズ」と言う用語が提唱され,流行したことが象徴的である.さらに,呼吸理学療法の専門書に記載されている各種の専門用語についても,同様の問題が指摘できる.例えば,胸壁軽打(percussion)についてみると,胸壁軽打法,胸部軽打法,軽打法,胸壁指腹軽打法,軽い連続的叩打,胸部パーカッション,タッピング,カッピング,クラッピングなどさまざまな名称で呼ばれており,英単語もclapping,cupping,tappingが同義語として用いられている.呼吸理学療法が科学であるためには,専門用語の統一と呼吸理学療法の手技の統一が不可欠であることは,いまさら述べるまでもない.読者には当面はいくつかのテキストを比較することや,断片的でもEBMを検討した論文2)を熟読すること以外に推奨できる方法がない.
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