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大学教員をしていると,例年1月ほどせわしなく過ぎる月はありません.師走というように確かに12月もあわただしいのですが,1月は卒論,学位論文審査,センター試験など行事が目白押しで,じっくり考えている時間はないといってよいほどです.さらに最終学年の学生にとっては国家試験勉強の追い込み時期でもあり,普段閑散としている図書館がこの時期からにわかに活気づくのです.理学療法士国家試験で,学生にとって最もなじみの薄い分野といえば「心理・精神」領域と言えるでしょう.もちろんカリキュラムには精神科学,臨床心理学は必修科目として配置されていますが,少なくとも臨床実習ではこの領域の症例を担当することなくここに至るわけです.
本特集「心理・精神領域の理学療法」において,渡辺先生が冒頭部分で述べているように,30年前には「理学療法士は精神科に入院する患者にはほとんど関心がなかった」のが現実でした.しかし今日状況は変化し,精神科病院からの理学療法士への求人は1,500件を超えることが指摘されています.さらに精神と身体と環境は相互に影響し合い,理学療法の貢献によって精神科医は身体性という視点を取り戻し,精神科患者のQOL(quality of life)を高めることが可能であるばかりでなく,理学療法士は患者の心理を学ぶ意味を再認識すると述べています.本特集では,さらにこのような現況を踏まえて実際に理学療法士がどのようにかかわるのか,診療報酬・運営上の課題,身体精神合併症例への対応,脳卒中症例のストレスコーピングがそれぞれ第一線の著者によって論じられています.これに加え,富樫先生によれば,心理・精神領域の卒前・卒後の理学療法教育について「こころと身体」を診ることができることが目標として重要であり,心理・精神領域は理学療法学の枝葉ではなく根幹をなすものであるという指摘がなされており,編集子も同感です.だとすれば,国家試験前に一夜漬け的に再学習するだけでなく,継続的に卒後研修を含めた生涯学習プログラムを進める重要性を痛感します.
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