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はじめに
関節疾患とは多くの場合,重力環境下における力学対応が関節の機能解剖学からみて合目的性を欠いたことで引き起こされる環境適応障害と解釈できる.例えば不良姿勢や誤った動作習慣が原因で慢性疼痛を引き起こしている症例を考えると理解しやすい.こうした症例では重力環境下における力学対応の方略が問題なのであって,合目的な方略を学習しないかぎり疼痛の再発は防げないのである.
関節機能解剖からみて合目的性を有する力学対応を実現させるためには,自分の身体がどのような状態にあるのか,自分を取り巻く力学環境がどのような状態にあるのか,力学環境への適応状態がどのような状態にあるのか,ということが正しく認識されなくてはならない1).また,関節機能解剖的合目的性のある身体運動を保障するためには,筋の反応性,筋力,筋の伸張性や関節の可動範囲といった運動学的要素も重要である.
これらの条件が満たされて,自分の動作の方略に問題があることを認識し,正しい方略を選別して,正しい力学対応を選択・実行できるのである.こうした身体運動制御の基礎には,関節内部および周囲の,滑膜・関節包・靭帯・筋・腱および皮膚などに存在する固有受容器からの入力情報が必要不可欠なのである2).
身体運動制御のメカニズムに立ち入り,望ましい力学対応を学習させることは運動療法の本質的な部分である.われわれ理学療法士の治療的介入は,よろずなんらかの形で情報入力の一次器官である固有受容器を刺激しており,良きにつけ悪しきにつけ,身体運動制御のソフトウェアに干渉している.関節ファシリテーションを考えるにあたって,われわれは固有受容器からの入力情報がどのように身体運動制御に必要なのかを理解し,関節疾患との関連性について考えなくてはならない.その理解がなされた上で,何を何の目的でファシリテーションすべきかという戦略的思考を組み立てることが重要なのである.
そこで本稿では,変形性膝関節症(以下,OA)を例に挙げて,関節疾患の成因と固有受容器からの入力情報との関連について述べ,関節疾患における理学療法戦略の構想や戦術の創造に,ファシリテーションという概念をどのように用いることができるのかを論じてみたい.
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