特集 認知と理学療法
前頭葉症状を呈する患者の理学療法
千葉 哲也
1
,
和田 義明
1
Chiba Tetsuya
1
1日産厚生会玉川病院リハビリテーション科
pp.321-327
発行日 2000年5月15日
Published Date 2000/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551105544
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.はじめに
前頭葉はヒトの脳のなかで最も大きく,全ての大脳皮質のなかでも最高次である.また,前頭葉とくに前頭前野の発達には7~8歳までかかり,ヒトの脳のなかで最も良く発達し,未分化な部位でもある.一般に“前頭葉症状”と称されるものは,この前頭前野の障害によって生じるものを指し,運動野での単純な麻痺などは含まれない.この前頭前野では,左右の機能の違いは症状的に示されているものもあるが,言語中枢のようにはっきりと区別されているものではない.
前頭前野の損傷により生じる症状はより低次の認知,行為といった障害より様式特異性に乏しく,種々の機能の障害の形式として表現されることが多い.すなわち,概念ないし“セット”の転換の障害(高次の保続),流暢性の障害,ステレオタイプの抑制の障害,複数の情報の組織化障害などとして表現される1).
また近年,遂行機能という概念が話題になっているが,これは意志,計画の立案,目的ある行動,効果的に行動することをその構成要素とする2).前頭葉症状はこのような遂行機能障害と必ずしも一致したものではないが,オーバーラップするところも多く,認知リハビリテーションの領域で最近しばしば話題になっている.
実際の疾患では,神経心理学的な狭義の“前頭葉症状”に加えて,Gegenhalten,把握反射といった前頭葉徴候,覚醒・情緒障害,健忘などが組み合わされて出現することから,リハビリテーションの立場からは,臨床上よくみられる症状を念頭に置いてアプローチすることが望まれる.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.