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I.はじめに
前頭葉の機能は謎に包まれている。Teuber(1964)はかつて,前頭葉の謎という表現を用いた。確かに,頭頂葉,後頭葉などの機能のある程度の分りやすさに比べると,前頭葉は分りにくい。その一つの理由は前頭葉がきわめて広い領域であるにかかわらず,全てを前頭葉として一括して考えるところにあると思われる。これまでの多くの前頭葉に関する研究も前頭葉をまとめて語るものが少なくない。しかし,細胞構築学的には前頭葉は少なくともfrontal agranular cortex(Brodmannのarca 4,6,8)とそれより前方のPrefrontal granular cortexに大別される(Brodal,1981)。この構造上の差から機能を類推すると,agranular cortexはなんらか運動的な役割を持ち,granular cortexは運動との直接的関連が薄いことが示唆される。したがって,前頭葉の神経心理機能を考察するにはこの二つの領域を可能な限り区別して考えることが必要であると思われる。両者の境界をどこに置くかについては学者によってかなりの違いがあるが,本論ではBrodal,Denny-Brown(1951),Fuster(1980),Damasio(1979),Brown(1985)などを参考にして一応agranular cortexのうち中心前回(area 4)を除くarea 6,8,44,45を運動前野と呼び,それより前方を前頭前野と呼ぶことにする。この場合問題はarea 9でこの領域は第2前頭回ではかなり後方まで伸展しているがとりあえずarea 8とarea 45をまっすぐ結ぶ線で分けることにした(図1)。CT上の病巣が整理しやすいという人為的理由からである。CT上の病巣は田辺(1982)のCTアトラスに従って,この二つの領域に入るか入らないかを決定した。この運動前野と前頭前野の二つの領域の神経心理症状を別々に考察してみたい。
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