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はじめに
前頭葉問題は,“もはや謎ではない”1)とまでいわれるようになったが,前頭葉機能についての確証されたデータはきわめて少なく,以下の諸点がなお前頭葉研究を混乱させ,依然として“前頭葉の謎”という言葉を流布させている原因と思われる.
1)前頭葉の解剖学的特異性(他の脳領域との機能的関連をもつ密で相互的な線維結合を有し,すべての感覚様式の情報を受ける)とその病変の非限局性(前頭葉病変は解剖学的境界を無視し,他領域にも影響を与える傾向が強い).
2)前頭葉に関連するとされている「自己意識」「動因」「抽象的思考」などの精神活動の定義と,これらの活動の基礎となる「統合」「選択」「制御」「監視」「実行」機能などのいわゆる前頭葉機能の不分明さ.
これに関連して予想されるように.
3)前頭葉症状は局在性価値(症状と損傷部位の厳密な対応関係)に乏しく,び慢性脳病変や非特異的症状としても認められ得ること.
4)個人差がきわめて大きく,病前状態との比較が困難で,negative caseの存在も多いため症状の一般化が困難であること.
5)特異的で定量的な神経心理学的検査の対象となりにくく,検査結果が一定しない(検査結果の標準偏差が大きく,再現性に乏しい)こと,などがあげられる.
つまり,前頭葉損傷が独特な行動変化をもたらすことに異論はないが,“前頭葉症状群”と呼べる恒常的な単一のsymptome complexを抽出し,それ(その構成要素)を前頭葉内の一定の領域に関連させる試みが成功しているとはいい難いのであり,したがって,そのリハビリテーション方略も一定の理論に裏打ちされたものではなく,断片的で有用性の評価も定まっていないものが多い.
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