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Ⅰ.初めに
ここ十数年来,脳性麻痺療育において,乳児期の治療期間中に獲得される基本的運動能力や発達程度は飛躍的に進歩した.とりわけその中で理学療法の果たした役割は大きく,さらにその大部分が,胎児期から乳児期に及ぶ神経生理学的発達にその基本を置く神経生理学的治療法によってなされてきたことは,よく知られている.すなわち,正常な発達をたどる胎児・新生児・乳児が,あのような短期間のうちに,どのような脳のメカニズムによって複雑で協調的な運動を身につけるのかについて,これまでのあらゆる経験を動員し,それらを最新の神経生理学的知識によって裏付けていこうという考えかたに基づいた方法である.
このような基本的な考えかたを踏まえて,脳性麻痺療育の中では,理学療法と整形外科的処置(手術や補装具)とは,従来にも増して密接な補完的関係にあることが明らかになっており,むしろ幼児期以降の療育の中では,手術の適応や補装具の種類とその使い分けは,理学療法を援助し治療の新たな展開をもたらす手段として,家庭・学校での扱いかたを含めて,現在不可欠な要素となっている.
このうち脳性麻痺の理学療法の中で装具を用いることは,従来からも伝統的に行なわれてきたことであり,その適応は主に,①変形の予防・矯正,②術後の矯正肢位の保持,③術前のテスト,④不随意運動のコントロール,⑤望ましくない関節運動の防止,⑥患者の支持ならびに機能の改善,⑦筋力低下のときの支持,⑧機能訓練の補助,⑨教育訓練機器,が挙げられている1).そして,麻痺のタイプや部位によってそのおおよその基本的用いかたは決まっていると言えよう.
しかし周知のように,脳性麻痺の病態像は,同一患者ですら,その年齢や活動程度と範囲(知的なものも含めて),環境などにより大幅な変化を示すため,実際にはこれらの原則は,症例ごとのその都度の特異的適応として考えるのが通例と思われる.すなわち,理学療法を行なう子どもの年齢と相応のADLに対して,発達の遅れに伴った欠落する基本的能力の補完,また予想される異常性の増悪(異常発達)に対する予防的な処置の一翼として装具療法が求められてこよう.日常の理学療法場面で,われわれが頻繁に遭遇する症例を通して,脳性麻痺の理学療法と装具療法とに関してその効果的managementについて考えてみたい.
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