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はじめに
脳性麻痺(以下CPと略す)は,発達段階における未熟な脳が何らかの原因によって損傷を受け,正常運動の発達がおかされて,運動機能障害を起こすと理解されている.可塑性に富む未発達な脳の損傷であるが故に,適当な感覚(知覚)刺激を与えることで中枢神経系を刺激し,正常の運動発達に導く早期訓練の効果が期待できるわけである.患児が乳児から幼児へと成長してくると,移動動作や諸々の日常生活動作(以下ADLと略す)を獲得してゆく段階でも,発達課程にあるので正常発達をめざす訓練を行うことが原則である.その意味で色々の手技や器具の工夫がなされているのであるが1),ひるがえって同じ年頃の発達段階における正常幼児を考えてみると,一般社会でも全く同様に配慮されていることが想起される.たとえば,食事動作の発達をみても,手把みの次はスプーン使用による食事動作であり,両手動作,手指の巧緻運動動作や知能の発達と相俟って次第に箸を使うようになる.市販のスプーンも最近では機能面を考えたものもあり,また,コップにしても両側に柄がついていて,幼児が両手で持ちやすいようなものもあって,正常の幼児の使用するADL上の器具にも幼児の発達に合った工夫がされている.椅子も年齢に応じて使いやすいものが市販されている.7~8ヵ月の坐位バランスがとれだした子供に歩行器を使わせると,躯幹や下肢の伸展パターンを誘発し,さらに下肢を床につけて動かすことで立位における体の移動や交互運動にも繋がる.歩き始めの子供の靴は,まだ不安定な足関節の支持によい踝まであるhigh top shoesに近いものである.カタカタは,まだ安定した独歩のできない子供の移動手段として有効で,かつ,十分に知的要求を充たしうる玩具の1つであるともいえる.
運動機能の向上がCP訓練の大きな目的であるが,知能が余りおかされていないCP児では,生活年齢に比べて運動年齢が劣ることが多いため,運動発達を助長すると共に,一方で患児の知的満足感を与える経験をさせて順調に知能を発達させることが必要で,工夫された器具の使用を考えることになる.患児が学齢期になれば,学校という社会的規則の下での生活が過せないといけなく,その可能性を求めての実効的な効果がえられる治療,訓練のウエートが次第に増大してくる.したがって幼児期からの延長での訓練が基本にあるが,一方で残存機能増大と代償機能の開発に少しづつ重点が移ってくるといえる.さらに年長CP患児や大人のCP患者となれば,ますますその意味合いがはっきりくる.もし障害の程度が強く自立がほど遠ければ,介助の度合いが増すが,患者の機能的レベルが少しでも向上し,患者が楽でストレスの少ない扱い方で,しかも介助がしやすいような工夫がなされよう.筆者は,CPの(リ)ハビリテーションでは,発達という事に重点をおいた乳幼児期から,次第に社会生活での実効的な機能の獲得に重点が推移してゆく学童期,そして,ほとんどの者に残存機能増大と代償機能の開発を考えねばならない年長児から大人へかけての時期,というように,大まかであるがCPの(リ)ハビリテーションを行う上でのアプローチの変化があると考えている.
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