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Ⅰ.初めに
人類の第一の特徴として挙げられる直立姿勢は,非常に長い年代をかけて,身体の保持と移動とに関連して進化してきたが,ヒトがどのような姿勢の変遷を経て,あるいはどの時期に直立し歩行するに到ったかについての定説は無い.
骨格の構造から推測されることは,200万~400万年前のオーストラロピテクス(1947年南アフリカ連邦で発掘)が,まだ直立歩行の初期段階で,ゆっくりと長い距離を歩くことができず,辛うじて小股で走ることがやっとであったとされている.原人―ホモ・エレクトス(1856年ドイツのネアンデルタールで発見され,ネアンデルタール人とも言う.)の段階になると,坐骨も大腿骨も現代人とほとんど変わらない形になり,長距離を大股で歩くことができ行動半径が大幅に拡がったと推測されている.
人類が二足歩行によって行動半径を拡げるための適応として,下肢が相対的に長くなり,その後,立位姿勢をとるようになって,頭部が発達したものと考えられている.
また,姿勢が,胎生期より老人まで人間の生涯において,幾度か変化することはよく知られている.胎児は子宮の中で,すべての関節を屈曲しうずくまった姿勢を取っているが,誕生後四肢関節は狭い子宮から開放されて,10か月くらいまでは半屈曲をとるようになる,生後9~10か月くらいで,なんとか立ち上がることができるが,まだ脊柱の彎曲は緩やかで,徐々に頸椎の前彎,胸椎の後彎,および腰椎の前彎が形成されてくる.特に幼児期(2~6歳)には腰椎前彎が顕著になり,それに伴って骨盤前傾が生じてくる.学童期(6~12歳)になっても腰椎前彎は著しく,いわゆる出尻であり,この傾向が成年期まで続き,その後,脊椎の生理的彎曲は一定の限界内で固定し,骨盤の前傾は減少し,発育に伴って下肢も十分に伸展するようになる1).
このように,われわれの本来の姿勢は,長い系統発生的な歴史と個体発生的な事象とによって完成されてきた.この完成された立位姿勢の研究は,解剖学,生理学,整形外科学,小児科学,神経内科学,人類学などの領域で,それぞれの目的に応じて種々の計測方法で行なわれている.
ここでは,立位姿勢の脊椎の彎曲,体型の計測方法,立位姿勢の筋活動,そして上・下肢関節の関係について述べてみたい.
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