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本書がいう「機能」とは,「ただ座る」「ただ歩く」という環境や課題を無視したものではない.日常生活での課題と,環境に適応しようと個人の能力を発揮した結果の機能的適応行動をさす.この「機能」にアプローチしてこそ目標に達成できるということを,第1章の評価法についての文献考察からはじまり,最後の章の比較研究報告まで論理的に証明してみせている.本書では,評価法,治療においての「機能性」を徹底的に追求する.読み進むにしたがって,国際障害分類(ICIDH)の「機能」とそれが改訂された国際生活機能分類(ICF)の「機能」の考え方があまりにも違うことに気付き驚かされる.本書ではICIDHにおける機能・構造障害(impairment)を改善することで能力障害(disability)―日常の機能にあたるもの―を改善させていく,という「階層的」伝統的病理指向型アプローチを否定し,ICFの,活動の遂行能力は個人,環境,課題の,動的相互作用の結果おこる,という「同時並列的」考えに基づいた機能的治療アプローチを推奨している.療法士の役割は,この身体的社会的環境,課題を調整することに重きを置くことになる.そして,社会的環境の一つである両親の役割について論じる展開になっている.生活機能の改善を目指すとき,こどもと一緒に生活している両親が,治療目標,問題点,治療計画,治療実施に参加することが重要だということを論じている.家族は専門家のいうことを聞いて実践するという受身的な存在ではない,共に協業していく存在であるという理論を説いている.以前訳者にこの内容を説明されたとき,衝撃を受けたことを覚えている.今までの階層的な見解を捨て,同時並列的なとらえかたを採用し,家族と協業していく態度で目標を達成していくという新しいパラダイムへの変換は,訳者が訴え続けている内容である.訳者の講演や本にふれたことのある方は,本書のメッセージが,まるで訳者のものかと錯覚するかもしれない.著者が「バックトランスレーション」したときに感じた驚きはここからきているのであろう.私は訳者から本書にあるパラダイムの変換を説明され,自分の理学療法の世界が開けた経験をした.今回本書の内容により,また新しい自分に出会えた.このような素晴らしい内容を紹介してくださった著者と,訳してくださった訳者に感謝したい.そして,発達障害を持つこどもと家族のために日々奮闘しているセラピストをはじめ,医療,療育関係者の方が本書にふれ,パラダイムの変換をしていくことで,自らの進化,こどもと家族の進化を実現していくことができることを確信する.それが日本文化の中に浸透していくことこそが訳者の願いなのである.
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