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はじめに
医療者は,対象者の訴えを基に必要な情報(自覚・他覚的な医学的・社会的要素を含む)を収集して病態を適切に把握したうえで,対象者の課題(問題点)を抽出しニーズに基づいた目標を設定し,安全で効果的な介入を行う.このような過程は,医療の歴史とともに繰り返されてきたことで,現在でも本質的な違いがあるわけではない.
一方で,科学技術の進歩に伴い検査や治療の技術は進歩し,人口構成を含めた社会環境の変化とともに疾病構造や保健制度は変遷し,介入の目的や治療目標は変化している.あわせて,臨床疫学の知見による帰結を踏まえた根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の実践が推奨され,医療の過程における方法論には異なる戦略が求められている.
クリニカルリーズニング(臨床推論)とは,「対象者の訴えや症状から病態を推測し,仮説に基づき適切な検査法を選択して,最も適した介入を決定していく一連の心理・認知的な過程」1)である.冒頭で述べたように,クリニカルリーズニングは医療の歴史とともに繰り返し実践されてきたことで,目新しい概念のように取り上げられていることには違和感を覚えるかも知れない.この点については,現代社会における情報処理の特徴や医療制度に伴う専門分化の影響などを含めて,理学療法ジャーナル43巻2号(2009年)の特集「クリニカルリーズニング」に整理されている.
本特集では,理学療法士のクリニカルリーズニングという共通した思考過程に,脳卒中という病態を有する対象者をあてはめた時に,リーズニングの視点や方法が具体的にどのように構成されるのかを明確にする.このことによって,脳卒中理学療法の実践能力を高めるとともに,理学療法士のクリニカルリーズニングの枠組みを一層精緻化しようとするものである.
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