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運動連鎖って? 聞き覚えのない方でもopen kinetic chain(OKC)やclosed kinetic chain(CKC)の考え方はご存じだと思います.人間が日常の生活を営む上では様々な動作が複合的に行われ,どの動作ひとつ取っても連鎖的な運動を伴わない活動は皆無と言えます.体の各部位は単体ではなく様々な組織,機構によって繋がれています.本書では構造障害を運動連鎖の破綻と捉えて,身体全体に波及していく影響に対して理学療法介入を行っていく,治療の一端を担うことをイメージさせてくれます.運動連鎖というと身体各部の動きを詳細に観察するというイメージがあり,そのためには装置を使った解析を行うことが不可欠であるような感覚もありますが,この本書の中では実際にセラピストが目の前にいる人の動作を観察し,筋や関節を触診して,種々の動作を行っていく中でそのメカニズムを解析する方法が示されています.そして解析に必要な運動連鎖の概念を予め解説し,種々の動作や障害に当てはめて運動イメージを構築していけるようになっています.健常の動作から疾患に至るまでいくつかの考え方を提示されており,臨床の中で実際に確認する方法もわかりやすく解説されています.運動連鎖実践編では疾患からみた運動障害の診方を細かく記載されており,実際に起こり得る現象を新人セラピストや初めての障害を担当するセラピストに対してもイメージしやすく示されています.特に用いられている図に関してはイラストや写真,スケルトンモデルを用いて,骨や筋の動き,運動方向,抵抗,痛み,ストレスの部位など事細かく記されているため,実際の介入の中で再現しやすいようになっています.患者指導の具体的な方法やセルフエクササイズの方法なども記されており,患者のニーズにも応えられるものになっています.また,患者指導など理学療法介入する中で日常的に利用する用語や,理学療法では一般的に利用されていない用語など様々な用語に対して理学療法士が利用しやすい説明が記され,臨床での患者へのオリエンテーションにも活用しやすいと思います.その他,学生指導する場面においても具体的な評価方法や目的,見落としやすい現象も示されているため動作障害を理解するための運動器系テキストとしても利用しやすいでしょう.その他,運動器系疾患だけでなく神経系疾患の障害に対しても記されているため,幅広い疾患への考え方もできるようになっています.現在,研究会も立ち上がって今後さらに理学療法においても周知されていくことは間違いなく,理学療法の効果にも影響を与えられる一冊となるのではないでしょうか.
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