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まず本書については,総論を2章,各論を29章という既刊書にない構成になっている大きな特徴を挙げる必要があろう.すなわち,総論を全体の1割未満のページ数にとどめ,残りのすべてを各論が占める配分としている.臨床実践にバッサリと切り込もうとする編集方針が窺える.これにより,臨床で行われている「歩行の診かた」が,多くの疾患で観察される歩行障害を引き起こす要因を探り出すあらゆる評価法の中に,有機的に述べられている.これらの評価は,STEP 1~3(章によりさらにSTEP数が増える)と進められ,最後に歩行障害に対する理学療法介入法の詳細へと繋げる記述とされている.このほかにも高齢者を扱った第25章のように,移動能力低下の有無と転倒リスクの有無を組み合わせて,歩行練習の対象者の障害像を絞り込み,様々な障害像に対応できるような理学療法の治療指針を示している点は特に有り難い.これらは,初学者が治療の枠組・指針を考える際に,デッドロックの状態とならないよう配慮しているものと思われ,既刊書にみられない特徴として価値ある踏み込み方である.
とかく敬遠されがちな力学解説にならざるを得ないバイオメカニクスに関する内容は,関節モーメントを中心に適宜,図を用いて丁寧に解説されているので理解しやすいと思われる.このほか,それぞれの要所に“MEMO”がソートされたワンポイントレッスンが取り上げられ,知識を深めるために引用された文献以外の推薦図書・論文が提示されていることも,初学者にとっては足下を照らす明かりとなるはずである.そして,述べられている評価・治療および治療効果の判定は,三次元動作解析装置や床反力計など高額な機器を除き,ほとんどの医療施設に具備されている物品で実施可能なものばかりであり,手の届かない評価手法はないと言ってよい.
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