- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
上肢の運動は,手を対象(object)に到達させ,それを操作するという行為をつくりだす.人類の祖先であるホモ・エレクトスは「直立するヒト」,ホモ・サピエンスは「考えるヒト」を意味するが,猿人と原人の中間に位置するホモ・ハビリス(Homo habilis)は「器用なヒト」を意味し,手を使って石器(道具)をつくり,それを用いて生活を営んでいたという記述がある.ハビリスとは人間にふさわしいという意味でも用いられ,それは適応,有能,役立つ,生きるなどの意味も包含し,リハビリテーション(Re-habilitation)の語源となっている.すなわち,手の運動によって道具を操作するという行為そのものが,人間らしさをつくるものであり,リハビリテーションとは再び(Re)その状態(手で道具を操作する)へ回復(本来あるべき姿への回復)することを指すことになる.ホモ・ハビリスの当時の脳骨格モデルから,道具の使用に伴い脳の容積が増え,前頭部に膨らみが生じていることが確認されている.このように,人類の祖先は環境に適応するために手を使い,道具を創造し,そしてそれを操作しながら,身体運動の巧緻性を「脳―身体―環境」の相互作用の視点から磨いてきた.
手の運動に関連する神経活動は,古くから研究の対象になってきた.なぜなら,手の運動は意図に基づいたものであるからである.本稿では,サルを対象にした神経生理学的手法を用いた研究から明らかになった手の運動制御と学習に関連する科学的根拠と,近年のヒトを対象にした脳イメージング研究で明らかになった上肢の機能回復に関連する研究成果の両者から,手の運動制御とその学習機構について神経科学的観点から述べるとともに,それらの科学を利用したニューロリハビリテーションについて考えてみたい.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.